2023年1月6日金曜日

第194回金曜会のお知らせ

 今月27日に開催いたします第194回金曜会のご案内をさせていただきます。


今回の演者はNIDDKの犬塚義先生です。犬塚先生は2006年京都大学をご卒業後、消化器内科の道に進まれ、数ある消化器疾患の中からウイルス性肝炎を選んで研究に従事してこられました。今春で約5年間のNIHでの研究を一区切りしてご出身の京都大学に戻られるということで、帰国前にお話をお願いいたしました。
犬塚先生はまた、金曜会の幹事として、あるいは当地における消化器内科バックグラウンドの方々のハブとしても活躍してこられました。帰国前最後の交流の機会として、多くの皆様に講演会、懇親会にご参加いただけたらと思います。

なお未発表データも多く含まれるとのことで、講演会はin person限定での開催を予定しておりますが、Bethesdaキャンパスのリスクレベルがmedium以上の場合はオンライン開催に当日突然変更となる可能性があります。ただしその場合でも懇親会に関しては予定通りin personで開催させていただく予定です。

多くの皆様にご参加いただけることを心よりお待ち申し上げております!


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194 NIH金曜会

講演会:2023127日午後6時よりin person開催
    Building 37 4階カンファレンスルーム (Room #4041/4107)
 
 演者:犬塚義先生(NIDDK
 演題:ゲノムワイドCRISPRスクリーニングにより特定されたHepatitis B Virus感染の宿主依存因子
    ~僕がノックアウトした遺伝子と僕をノックアウトしたUS life
 
懇親会:午後8時ごろより Rock Bottomにて

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講演 要旨
B型肝炎ウイルス(HBV)はヒトやチンパンジーにしか感染せず、宿主のレンジが限られていることは、HBV研究発展の幅を狭めています。渡米後テーマが決まっていなかった自分は、「如何にしてHBVをマウスに感染させるか」というテーマに取り組むことに決めました。そこで近年、様々なウイルスの宿主因子の同定に成功し注目を浴びている「ゲノムワイドCRISPRスクリーニング」に着目しました。
初めにCRISPRスクリーニングに必要な蛍光タンパク質RFP遺伝子をゲノムに組み込んだHBVレポーターウイルス(HBV-RFP)を開発しました。HBV-RFPを用いたゲノムワイドloss-of-function CRISPRスクリーニング手法を確かなものとするため、マウス細胞で始める前にHBV感染が確立しているヒト肝癌細胞株であるHepG2NTCP細胞を用いて遺伝子スクリーニングを行い、これまで報告のない未知のHBV宿主依存性因子を同定することを目的としました。Inducible Cas9 systemを用いたHepG2NTCP/Cas9細胞に、19,114個のヒト遺伝子を標的とするgRNAライブラリを形質導入してゲノム編集をし、HBV-RFPに感染させRFP陰性の非感染細胞をFACSでソーティングしました。次世代シークエンスとバイオインフォマティクス解析を行い、HBV感染の宿主依存因子として上位100遺伝子の中から肝細胞で発現を認める63遺伝子を決定しました。この中には、HBVのレセプターとして知られるNTCPを代表とする既知のHBVプロウイルス因子が複数含まれていました。検証のため、CRISPR-Cas9により63遺伝子の遺伝子ノックアウト細胞を作製し野生型HBVを感染させ、親細胞に比して有意に細胞内HBV RNAの減少を認めた14遺伝子を同定しました。さらに初代ヒト肝細胞を用いてsiRNAによるノックダウンとHBV感染実験を行い複数のHBVプロウイルス遺伝子を絞り込み、未知の新たな因子を見つけました。
発表当日は上記の研究を中心にお話しいたしますが、このスクリーニング法は「マウスにHBVを感染させる」ために開発したものであり、現在マウスのHBV感染に必要な因子を同定するための研究を進めているところですが、当日は時間と体力と集中力の許す限りこれらの取り組みもお話しできたらと思います。副題のUS lifeの写真を盛り込んだプレゼンにお付き合いください。




第193回金曜会のお知らせ

120日開催予定の第193回金曜会のお知らせです。


演者はNIAMSの仲野寛人先生とNIDCRの中村浩之先生のリウマチ膠原病内科バックグラウンドのお2人です。

仲野先生はリウマチ膠原病内科医として診療を行うとともに、横浜市立大学にてベーチェット病などの自己炎症性疾患の研究に従事してこられました。2018年よりNIAMSのポスドクとして渡米してこられ、主に小児のsJIA(スティル病・全身型若年性関節炎)を対象にドライとウェットを併用して研究を進めて来られました。

中村先生もリウマチ膠原病内科医であり、2019年に北海道大学よりNIDCRにポスドクとして来られて、以来シェーグレン症候群の研究に従事されております。こうした自己免疫疾患は「加害者」である免疫系の機能異常という側面から研究されることが多いのですが、中村先生は「被害者」である自己免疫反応のターゲットとなる唾液腺細胞に着目して研究を進めて来られました。

仲野先生は横浜市立大学に、中村先生は札幌医大にポストを得られ、この春に本帰国のご予定ということでお話をお願いいたしました。この領域の疾患はいずれも比較的希少であり、かつ疾患の本質や全体像を示すような病理検体が得られません。そうしたとらえどころの少ない疾患をどのように研究していくか、先生方の研究は他の分野の研究にもきっとヒントになると思います。

なお、講演会はin person限定での開催を予定しておりますが、Bethesdaキャンパスのリスクレベル次第でオンライン開催に当日突然変更となる可能性があります。ただしその場合でも懇親会に関しては予定通りin personで開催させていただく予定です。

多くの皆様にご参加いただき、お会いできるのを心よりお待ち申し上げます。


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193 NIH金曜会

講演会:2023120日午後6時よりin person開催
    Building 37 4階カンファレンスルーム (Room #4041/4107)
 
 演者1:仲野寛人先生(NIAMS
 演題1:スティル病・全身型若年性関節炎の発病に関連する感受性遺伝子CXCR4

 演者2:中村浩之先生(NIDCR
 演題2:シェーグレン症候群の唾液腺上皮におけるリソソーム機能異常
 
懇親会:午後8時ごろより
    Cubano's Restaurant4907 Cordell Ave)にて
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仲野先生 講演要旨 

スティル病・全身型若年性関節炎(sJIA)は、不明熱・関節炎をきたす病気として内科医・小児科医が想起する病気です。分子標的薬の開発により治療が進歩したものの、小児例では半数が寛解に至らず、時にはサイトカインストームにより死に至るケースがみられます。それ故、小児リウマチ性疾患においては最もアンメットニーズが残されている病気の一つであると考えられています。

私達のグループは炎症性疾患のイムノチップアッセーにより、6つのSNPのハプロタイプを持つ群でsJIAの疾患感受性が上昇することを突き止めました。このSNPのハプロタイプはCXCR4の発現上昇に関わること、そして骨髄球系の血球の遊走能増大に関与することがしめされました。今後sJIAを含めた自己炎症症候群のニーズに応える一助となるべく、今後のドラッグリポジショニングの可能性等の検証を続ける見込みです。

中村先生 講演要旨

シェーグレン症候群は、自己免疫性の外分泌腺炎で、主に唾液腺と涙腺が障害されることによるドライマウスおよびドライアイ症状を呈する疾患です。その外分泌腺機能障害に至る病態機序はよく分かっておらず、自己免疫性疾患であるにも関わらず免疫抑制治療の効果は限定的です。今回、私たちはシェーグレン症候群患者の唾液腺上皮細胞にリソソーム機能異常が生じていることを発見し、そのリソソーム機能の是正を目的とした新たな治療戦略の可能性を見出しました。