講演要旨:
演題1「小児期発症の希少難治性神経疾患、診断から治療への橋渡し研究」
島田 姿野 先生
(Visiting Fellow, Medical Genetic Branch, NHGRI)
先天性神経難病の原因は代謝疾患も含めて多岐にわたります。例えば、ヒトで糖鎖異常が起きると表現型はてんかんや発達遅滞などの神経症状が起こりえますが、多系統で不均一のため診断やその病態の理解に苦慮します。遺伝子型・表現型相関の理解や臨床応用を目指すため、我々は先天性糖鎖異常症(Congenital disorder of glycosylation: CDG)を疑う患者群のコホート研究や遺伝子機能解析、生化学的異常の確認等(グライコミクス解析を含む)を行ってきました。
私たちは、グライコミクス解析結果で示された、血清のCarbohydrate Deficient Transferrin(CDT)のII型グリコシル化パターンを手掛かりに、小胞体からゴルジ体への輸送を制御している、GET4遺伝子の機能異常を明らかにしました。また、MOGS-CDG患者群の臨床像の検討に加えて、最も信頼性の高いスクリーニング検査は、尿中オリゴ糖測定法が最も妥当であると示しました。
本セミナーでは、日本の未診断疾患イニシアチブ(IRUD)のモデルとなったNIH
Undiagnosed Disease Program (UDP)の診断から治療研究への現状や、糖鎖研究に参加した成果、帰国後の神経難病の懸け橋研究への思いをお伝えします。
演題2「希少・難治性疾患を治したい -核酸医薬による究極の個別化医療の取り組み-」
中山 東城 先生
(Research Fellow, Harvard Medical School Boston Children’s
Hospital)
2月28日は世界希少・難治性疾患の日(Rare
Disease Day)です。希少疾患は、その名前に反して決して珍しい病気ではなく、全世界で推定3億人の患者がいるとされています。残念ながら、これらの疾患のうち治療法が存在するのはわずか5%、希少疾病患者の30%は4歳の誕生日を迎えることができません。
私の所属する研究室では、このような希少疾患に対して、アンチセンスオリゴ核酸医薬を用いた臨床治験研究を行っています。私たちは、2018年、希少難治性疾患の一つである神経セロイドリポフスチン病の6歳女児に、患者固有の遺伝子変異を標的とした患者オーダーメイドの薬を開発しました。患者さんの名前にちなんでMilasenと命名した薬は、FDAの承認を得て開発から10か月後、臨床治験として実際に患者さんに投与を開始し、完全オーダーメイドの創薬と臨床治験が短期間で実現できることを実証しました。私たちは他の希少疾患に対しても同じアプローチができるのではないかと考え、以降、臨床治験を見据えた治療薬開発を展開し、これまで計5例の患者さんに対して臨床治験を行っています。
本講演では、私たちが核酸医薬を使った個別化臨床治験を進めていく中で見えてきた希望や課題をお話したいと思います。また、このような前例のないプロジェクトを立ち上げるには何が必要なのか、皆さんと一緒に考えることができればと思います。
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